「ZOO」

原作ファンの期待は裏切らない出来でした。お金を払って観る価値あり。パンフレット300円は妙に安いなと思ったら、プレスシートという代物だったか、やられた(笑)。
音楽がなかなかに効果的。主題歌(エンディングの曲)は特になんとも思わなかった(笑)けど、それぞれの作品に使われている音楽(クラシックが多い。「ZOO」の物語のトーンと対照的な軽快な曲も印象的)が良かったなあ。サントラがあったら聴いてみたい。役者さんはどの役もハマっていました。私のイチオシは「カザリとヨーコ」の小林涼子
原作を読んでから観るか、観てから読むか。──私は読んでから観た(しかも直前に再読までした)んだけど、乙一さんのお話って、終盤に「あっ、そうだったのか」って種明かしするパターンが多いので、結末を知らずに観た方が良かったかも、ってちょっと残念に思ったり。実は5話のうち、原作からかけ離れた作品が一つあって、それが思いのほか楽しめたのよね(大森望さんは「なに考えてるんだかよくわからん」って日記に書いていらしたけど)。なので、観てから読むのも多いにアリじゃないかなあ。でも、どのお話もかなりぶっ飛んだ設定なので、原作未読だともしかしたら話について来られないかも?

(映画館にて鑑賞)
以下、各作品の感想をネタバレ込みで。
「カザリとヨーコ」
二役を見事に演じ分けた小林涼子に尽きます。上手い!可愛い!
虐待だけでなくネグレクトでもあるんですね、この状況は。母親にロクに躾られていないヨーコはまるで犬のよう。ハンバーガーの残り物をカザリにもらうときのヨーコの表情(特に目)は、飼い主を見上げる子犬そのものでした。それがスズキさんと出会ったことで、自分が人間であることに目覚めていく。スズキさんがお菓子を行儀よく食べるようヨーコにそれとなく教えるシーン(原作にはなかった)は象徴的でした。「それはなんとしてでも食べたいですなっ」を、モノローグではなく実際にセリフで云わせたのも、正解だったと思います。
母親は、原作より気の弱さが前面に出ている感じ。なので「グラタン皿で殴り掛かってくる」ような、今にも殺されちゃいそうな圧迫感は少なかったかな。カザリが死んだ時も「飛び降りるのを止められなかった」って言い訳してるし(原作では、娘を殺しても平然としていた)。でも、カザリに扮したヨーコと向かい合っている母親の表情がふっと止まった時、「もしかしたら入れ代わりに気付いたのか?ヨーコが殺されちゃう!」って心底ゾッとさせられました。ここは松田美由紀、さすがの存在感。
ラストの「おっしゃー!」は、云うことなし。最高です。
「SEVEN ROOMS」
口紅、付け爪、カード、コンドームなどの小道具の使い方が抜群でした。電球を割るところなんかも、感心。
原作は、物語の悲惨さとは裏腹な、ある意味浮き世離れした登場人物らの高潔さが魅力でもあったんだけど、映画はもっと地に足のついた設定になっていて、私は「実写ならたしかにこうした方がいいかも」と素直に受け入れられました。他の部屋の女が「一人で死ぬのはいや」と主人公を道連れにしようとする場面は、原作にはなかったもんね。
でも、ラストだけは納得いかないっ!ほぼ原作通りではあるんだけど、なぜ笑わない? お姉さんの笑い声は絶対に聞きたかったんですよ。なので物足りないことこの上なし。あと、とぼとぼ歩いてないで、とっとと走って警察呼んでこいとも思いましたね(例えお姉さんを救い出すのに間に合わなくても)。もっともこちらは原作通りなんですが。
「SO-far そ・ふぁー」
そもそも無理な設定の話なんですよね。小説だとあまり気にならなかったけど、実写にしちゃうと「わざわざ相手が死んだってことにしなくても。いなくなった、ってだけでいいじゃん」と感じてしまいました。
神木隆之介くんをもっともっと動かしてほしかった。お父さんとお母さんの間を往ったり来たり、伝達係の自分の存在によって家族三人が成り立っている時の「誇り」と、それが崩れつつある時の「絶望」の落差を、メリハリをつけて演出してほしかったです。彼だったら充分に表現できたはず。映画のトーンが全体的に静かすぎました。両親のケンカのシーンの音声を消し音楽に埋没させたところは、上手いなあと思ったけど。
ラストのセリフを変えたのには納得いきません。「仲良くなってほしい」なんて甘い甘い。「もちろん父と母を別れさせないためである」という一文の持つ、ギリギリの切実さが良かったのになあ。
「陽だまりの詩」
モーションキャプチャー(俳優に実際に演じさせて、その動きをデータとして取り込み、絵に起こす)を用いたアニメという手法がぴったりハマっていました。作られた「私」の動きのぎこちなさ(動く度にモーターの音が微かにする)や、壊れた時のグロテスクさは、アニメならでは。古屋兎丸さんの絵もいいし、原作にないシーン(廃墟となり森に埋没したビルや信号機が一瞬映ったり、お墓に眼鏡がかけてあったり)も効果的。小品だけど、非の打ちどころがないなあ、こうやって感想を書いてみると。
ZOO
原作のエッセンスだけを活かした映像化で、物語の展開も着地点も違います。他の四作が原作を忠実になぞっているのにこの作品だけ違うので、違和感を覚えた人もいるかもしれませんが、私はむしろ先が読めなくて面白かったです。村上淳のダメ男ぶりが良かったし、浜崎茜も存在感あり。死体(この特殊メイクも凄い)の変化を画像ソフトではなく、パラパラ漫画のようにチープに見せたところもマル。殺害場所に至っては、動物園でしかあり得ないと思えたほど。無表情なシマウマも不気味で効果的でした。
ラストの不条理さも私は好き。一級のホラーに仕上がっていたと思います。原作者はこの「ZOO」が結構お気に入りだったみたい、さもありなん。(某スレを観たら「SEVEN ROOMS」の評判が上々、「ZOO」はボロクソ叩かれてました。わけわからんのは皆さんお嫌いなのかなあ、私は結構好きだったんだけどなあ。)