『失われた町』

021(小説)三崎亜記『失われた町』(集英社
まずはプロローグでめげないで、がんばって読み進めてね(笑)。最後まで読むと、冒頭の意味が鮮明に分かるから。得体の知れないものに対する恐怖を前面に出せばホラーに、町の消失から人々を守る戦いを詳細に書けばSFに、いずれにせよもっとドラマチックな物語に出来そうなものを、淡々と描くところがこの著者のカラーなんだなきっと。でも『となり町戦争』よりこちらの方がずっと好き。
無機質な文章で、情景や音色を想像するのにちょっと骨が折れたが、町の消失する原理も法則も分からない、そして悲しむと消滅が増幅してしまうという設定が秀逸。分からない故に生じる差別や偏見もリアルに感じた。相変わらず、お役所仕事の描写は上手いな。