『かたみ歌』

074(小説)朱川湊人『かたみ歌』(新潮社)
「ま、いつものノスタルジックなホラーファンタジー路線なんだろうな」「最近鬼のように各小説誌に書いていらっしゃるから、そう毎回毎回ハイレベルを期待したら悪いよな」と、軽〜い気持ちで読み始めたら、とんでもなかった。登場する世相や音楽を(リアルタイムではないにせよ)ぎりぎり知っている世代なので、物語に入り込みやすかったせいもあるだろうが、そうした小道具がなくても(つまり当時を知らない若い人でも)充分に楽しめると思う。淀みない美しい日本語にも惚れ惚れ。
舞台は各話共通しているのだが、それ以外にも人物、小道具が微妙にリンクしているのが上手いなあ。泣けたのが「夏の落し文」「栞の恋」。前者はホラーとしても出色。「朱鷺色の兆」は、語り手が何故あんな長話を始めたかを深読みすると、ゾッとした。
   (文庫)