「明日の記憶」

制作者の思い入れが強すぎると空回りすることがままあるのだが、この映画化は本当によくできていた。渡辺謙すごいぞ。ハデな映像テクも少なく(堤監督にしては?よく知らないのだけど)、奇を衒うことのない真直ぐな演出。でも二時間ダレることがなかったし、役者さんも皆素晴らしかった。
原作での主人公は、自らを旧式のパソコンに例えて「自分がいなくても会社は別に困らない」と自覚している、そんな存在(発病前でも)。映画のほうはもっとバリバリのやり手という感じで(渡辺謙ですから)、それだけに病気になった後との落差が激しくて。
アルツハイマーの父親がいるのが主人公でなく若い医師だったり、妻の出番が多かったり(予告では「ちょっと出来過ぎだよ、奥さん」と思ったけど、本編では妻の葛藤もきちんと描かれていて良かった)、でもおおむね原作通り。香川照之扮する河村課長が電話してくるシーンなんて、セリフも全く同じ。これほど忠実な小説の映画化の成功例、なかなかないんじゃないかな。
余談だが、映画館で隣に座っていたおばさんたちが、いちいち感想を口にするのがうるさくて。「謙さん、体格いいわねえ」とかなんとか。家でテレビ観てるのとは違うんだから、まったくもう‥とイライラしたけど、こういうアクシデントも後になるといい思い出になるものなんだよね。大勢で二時間余の時間を共有する映画館という空間、やっぱり大好き。

(映画館にて鑑賞)