『千年樹』

057 荻原浩『千年樹』(集英社
ひとつところで千年生きるというのは、こういうことなのか。樹を見る目が変わりました。
幾多の時代を越え、そこで繰り広げられる人間模様をだまって見続ける大樹の存在が、優しさや癒しではなく畏怖、さらには凶々しさすら漂わせているところが、なかなか好み。思わずひざを打つ、というほどではないにせよ、個々の短篇にまたがって出てくる人物が複数いるのも楽しい趣向。時代が変わって社会や価値観が変わっても、つまらぬ苛めをする卑小さや、人を想う純粋さは変わらない、人間とはなんとちっぽけで面白い存在であることよ。