「遺体 明日への十日間」

泣きはしなかったが、途中から最後までわたしは歯を食いしばりっぱなしだった。苛酷な状況の中でも自分の仕事を黙々とこなす、スクリーンの中の人物たちと同じ気持ちになってたのかなあ。長年映画館に通っていて、初めての経験だった。
被害を受けた当事者の方々は辛くて無理かもしれないけれど、事実としっかり向き合ったとても良い映画だったので、ぜひ多くの人に観てもらいたい。日本人ならではの風習や心情などもよく表れているので、海外にも広く紹介してほしいなあ。
以下、内容についてあれこれ。

・未曾有の災害に立ち向かって立派に働いた聖人君子、の話だけではないところが、とてもリアルで良かった。最初は、体育館の隅に呆然と立ちすくんでなにもできなかった市役所職員が、徐々に自分のできることを見つけて動いていく。それは、ただ黙々と床をモップで清めることだったり、遺族に声をかけてあげることだったりなんだけど。中には、友人の行方が分からず、自分のアパートも流され、なにも手につかない人も入れば、体調が悪い、移動願いを出した、夢に毎晩出てきてうなされるんだと弱音を吐く人もいて。そうだよね、こんな大勢の遺体を目の当たりにするなんて、市役所に務めてたときは全く想像もしなかったよね。
・しかしながらあの状況で、ボランティアは手弁当で来いって‥なんとまあお役所仕事だこと。配給の握り飯を分けてあげるのが、職員ではなく医者だったのも、なんかリアルだよなあ。
・阿鼻叫喚とはむしろ対極の、しんと静まり返った体育館、という光景は、すごく「日本」だなあと思った。焼香、読経、棺桶、火葬、死者を弔うという一連の行為も、日本ならでは。そして、これらの行為がこれほど、生きている人間の心を救うものだったとは。
・死後硬直はほぐせるのか。勉強になりました(その知識を披露できる場には、今後とも巡り会いたくないが)。
・死化粧をしてあげるシーン、好きだなあ。「ハンドクリーム‥ま、いっか」「母はいつも雑だったから」